BRANDING & DESIGN Case

Designed by REITEN.ICHI

日本酒「中乗さん」(なかのりさん*1)

長野県木曽町に蔵を構え、創業約150年の中善酒造店が醸造・販売する日本酒。
長年にわたり地元の人たちを中心に親しまれてきたが、造り手としては「できれば自分たちがこだわって造った酒を、もっと若い世代の人たちや全国の酒好きにも呑んでもらいたい」という思いを抱いていた。
そこで今回は次代へ向け、既存ファンのみならずファン予備軍との距離を縮めるべく、持続的なコミュニケーション基盤の構築と、将来的な商品展開力を意識したデザインを行うことになった。

歴史を受け継いだ杜氏たちが目指したこと

中乗さんは、木曽では知らない人がいないほど古くから愛され代々呑み継がれてきた。 近年になり、その酒造りを継いだ若い杜氏と蔵人たちは愛情・情熱・こだわりを一層強め、平成20年には自分たちの手で酒米作りをはじめた。また、平成21年には全国的にも有名な山田錦の使用をやめ、地元産の美山錦を使うなど全原料を長野産に限定し、その地その風土で育った酒造りを進めている。

中乗さんが描いてきた姿とこれから描く姿

地域の人から愛され、信頼され、里を想う気持ちに支えられている酒。
木曽という郷で愛され、グラスや猪口につがれる酒。
木曽谷で杜氏たちによって受け継がれてきた酒蔵。
親から子へ、子からから孫へ代々呑み継がれている酒。
宴や祭、呑みの席で昔から語り継がれてきた酒。

これらの背景・情景をふまえ、コンセプトを「里を想い、郷でつがれる地酒」とした。

Detail

目指したのは、受け継がれてきた魅力の再発見と再構築

受け継がれたのは、酒造りや酒蔵だけではない。
蔵の奥から出てきた道具に押されていたマークは、かつて先代が中善酒造店のシンボル化を図った貴重な財産であった。 酒造店としての正式なマークはなかったため、今回はこのマークを整えシンボルとして使用した。外箱用ラベルは、シンプルながら瓶との陳列でもマークの存在感が活きる設計になっている。

ロゴタイプの精緻化

「小細工なしに味で勝負したい。」
そんな造り手の思いは、パッケージデザインの要望にも繋がっていた。
「ロゴを中心としたシンプルなデザインにしたい。」
現在のロゴタイプになって十数年。その形は地元消費者にも親しまれているが、独特の存在感はあるものの、パッケージの中心に据えるにはどうもアンバランスな部分があった。そこで、可能な限り印象が変わらないように精緻化。一見違いに気づかないような調整を幾度も重ね、ロゴタイプとして充分な力強さとバランスを与えた。

違いを示すネックラベル

酒好きが最も気にする「どこ」の「どの米」の「どの特定名称*2」かという情報を、ボトルネックに貼られた一枚のラベルに集約した。これにより、フレーバーの違いを容易に見比べることができ、今後の商品展開に向けての機能性を持たせている。

アシンメトリーのラベリング

通常は表裏が別紙に分かれているラベルを一枚にし、瓶の裏側までぐるりと周るように貼る形にした。「注ぐ」という行為に心地良さを感じてもらうためだ。
酒を器に注ぐ際には、当然のことながら瓶を手で持つ必要があるが、紙が瓶を覆っていることで、結露した水分や酒でベタついた瓶肌に触れることなく注ぐことができる。また、凹凸がある紙を使用することで紙質の視覚的な効果と、持つ際に滑りづらくなる効果も生み出している。
そしてもう一つの効果は、左右非対称という良い意味での違和感だ。パッケージの役割として忘れてはいけないのが店頭での訴求力であるが、他には無い貼り方をすることで、シンプルでありながら独特の存在感を持たせている。

見せるための側面

見せるための側面

側面から裏面にかけて、酒の特徴と酒蔵の紹介が書かれているが、これは主に、お酒を覚えたばかりで日本酒にあまり馴染みのない世代や、お気に入りの指名銘柄が決まっていない、比較的若い方へのメッセージである。そのため、あえて小さめの文字で密度を高め、造り手の多くの思いを伝えると同時に、テクスチャとしての視覚的効果を持たせている。

知るための裏面

知るための裏面

ネックラベルに書かれていた基本的な情報に加え、米がどれだけ磨かれて造られた酒であるかをグラフィカルに表現している。
これにより日本酒に馴染みのある人もそうでない人も、直感的に精米歩合を知ることができる。



*1 中乗さん:林業が盛んな木曽では、鉄道が整備されるまで木材を木曽川で運搬していた。先頭を「舳(へ)乗り」後ろを「艫(とも)乗り」真ん中を「中乗り」といった。
*2 特定名称:清酒の要件を満たしたもののうち、原料や製法が一定の基準を満たすもの。国税庁告示に定められた特定の名称を容器又は包装に表示することができる。

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